文系?理系?

先日、Twitterで子どもに対して安易に「君は文系」、「あなたは理系」と言わないで欲しいとツイートしたところ、思いのほか多くの方が反応して下さいました。前々から思っていたことなのですが、ここで改めてお話しさせてください。

うちの子は数学さえできれば良いんです

今から10年以上前のことです。
ある小学生の男の子のご家庭との懇談です。

私は普段の子どもの様子や模試の成績などをもとにして、これからの学習目標などについての相談を行おうとしていたのですが、
お母さんが「うちの主人が、子どもは数学(算数)だけできれば良い。後の教科なんて必要ないという考えなんです。」と仰います。

聞けば、お父様は理系の大学院を卒業され、企業の研究職に就かれているそうです。
なるほど、ガチガチ理系の自分の子どもは理系だろう、と考えたのでしょう。
または、理系の道に進まれたからこそ、文系よりも理系の方が将来につながる、と考えたのかも知れません。

「あぁ、このご家庭は、子どもを理系に進ませたいんだな。」と受け止めて終わり、と考えることもできますが、中々そうはいかないんです。

理系だから国語はいらない!(?)

多くの子どもは、負担のかかる作業を嫌がります。
そして、少しでも楽な方に行こうと考えがちです。

周りの大人から「君は理系だな。」「算数(数学)だけは頑張りなさい。」などと言われると、
「僕は算数(数学)ができればそれでいいんだ。他の科目はできなくてもいいんだ。」
と考え始める子どもが出てきてもおかしくありません。

もちろん、お父さん、お母さん、塾の先生などはそういう意味で「理系」「文系」などとは言っていないこともあるかも知れません。

単に「向き」「不向き」位のニュアンスで使っていることもあるでしょう。

 

でも、子どもがどのように受け止めるかは全く別の問題です。

実際に、周囲から「理系」と言われている子どもの多くの観察していると、次の方な傾向があります。

  1. 漢字や歴史用語などをコツコツと暗記する作業を極端に嫌がる。
  2. 暗記が必要な単元については、成績が悪くても気にしない(だって数学ができるから)。
  3. 「得意」と思っている数学(算数)についても、特にテスト前に集中して勉強しようとしない。
  4. とはいえ、学校のテストで数学(算数)だけはそこそこの得点を取る。
  5. でも、その数学(算数)の得点も学年上位というレベルではない。

少し書き方がきついでしょうか?
でも、全ての子どもとまでは言いませんが、概ねこのような経緯をたどりがちです。

結局、最悪の場合、「自称」数学が得意な子どもが出来上がってしまう可能性があります。
つまり、本人は数学が得意と入っているけれど、他の教科が全然だめで、数学が少しマシなレベル、
という悲しい結果につながりかねないと思うのです。

では、逆は?というと、

この子は文系!英語さえできれば良い!

就学前から英会話を習っていて、英語については自信あり!という子どもも増えてきましたよね。
最近は小学校でも英語の学習をしていますが、小学校の授業では全然物足りない。

中学校に入っても、初めのうちは”I am~.”、”You are~.”みたいな簡単な文ばかり。
周りの子からも「〇〇ちゃんは、英語が得意でいいねぇ~!」

で、数学はと言うと中学最初の正負の数あたりでもうボロが出てきてしまう。

小学校の時から、計算が苦手。
そもそも間違うのが大っ嫌い。
赤鉛筆でバツを付けるのが、とにかくイヤ。
もう、算数(数学)なんて見たくもない。

私は英語が得意だから大丈夫!

で、放っておくとどうなるかというと

  1. 得意な英語以外の科目に興味がわかない。
  2. 自分は文系だから、数学(算数)ができなくても仕方がない。
  3. 英語の授業が面白くないから、あまり真剣に授業を聞いていない。
  4. 中1の終わりあたりから、英語の文法知識が追い付かなくなってくる。
  5. 「自分は英語が得意だ」というプライドが邪魔して、英文法をやり直す気になれない。

と、先ほどと同じように(超)悪循環に陥ることもないとは言えません。

元凶は大人の決めつけ

一番怖いのは、「大人からの刷り込み」です。

「お前は数学さえできればいいんだ。」と言われた子どもは、他の教科の勉強を軽視します。

「数学以外の勉強はしない」と強く決めつけてしまいがちです。

「あなたは英語ができるから、それでいいのよ。」と言われた子どもも同じです。
他の教科の勉強を丁寧にしようとはしません。
曰く「私には英語があるから大丈夫。」

もちろん、大人はそんな意味で言っている訳ではないと思います。

得意なことをどんどん伸ばしていきなさい!という叱咤激励だろうと思います。

でも、子どもはそうは受け取りません。

得意な教科があれば、ほかの教科はどうでもよい、と考えがちなのです。

こうなってしまったら、子どもの力、可能性を伸ばすことは難しくなります。

義務教育の間はオールマイティで

私は、少なくとも義務教育の期間中は、すべての教科に本気で取り組ませた方が良いと思います。

小中学校の勉強は、世の中に出てからの「一般常識」につながります。
その義務教育の内容をおろそかにしていては、大人になっても何か特定分野の「エキスパート」になることはなかなかできないのではないでしょうか。

幅広い「一般常識」があって、その上に「興味のある学問」、「得意分野」が乗っかっていると思います。

ですから、私は自分の塾の生徒たちには「捨てられる科目なんて一つもないよ。」と伝えています。

実技系科目であっても(であってもという言い方は適切ではないかもしれませんが)、大人になってからの教養として役に立つものが多いと思います。

そして、義務教育の内容は、全教科に対して一生懸命取り組んだ方が良いと思います。

世の中には確かに「文系」「理系」といったくくりがあるようですが、義務教育のレベルでの「文系」「理系」なんてあまり意味がありません。

お母さん方も、高校に入学したとたん、数学や物理などが強烈に難しくなった記憶がおありだと思います。
また、大学などのいわゆる『学問』の次元まですすむと文理の別は大きいとは思います。

 

頑張ってできるようにする。できるようになりたい。

私の経験からすると、正しい学力を持っている小中学生は、まず間違いなくどの教科もまんべんなく努力しています。

確かに各教科を細かに比較すると、「得意」と思われる科目や、それに比べると「やや手こずっている」科目があります。でも、総じて高いレベルで得点できています。

総合的な学力が備わった子どもは、結局、どの科目も手を抜かずに取り組んできているのだと思います。

もし、お子さんが算数(数学)が好きで、暗記ものにあまり興味をもとうとしない、とか、
英語が得意だが、計算問題などは苦手で、嫌がっている、
といった状況だとしたら、

安易に「あなたは理系だね。うちの家系だわ。」とか、「お母さんと一緒で数学は苦手だね。やっぱり文系だな。」といった言葉を口にしないで欲しいのです。

そうではなくて、
「数学がそれだけ得意なんだったら、ほかの国語だって、英語だって丁寧に取り組んだらよい結果が出ると思うよ。」

「得意な英語を将来武器にしようと思ったら、ほかの教科が平均以下だったら少し厳しいよね。武器が武器として使えるようにするために、ほかの教科もあきらめないで取り組もうよ。」
と声をかけて欲しいです。

できない科目があっても平気な子どもなんて、もともとはいません。
みんな、「できたらいいな」と思っているはずです。

でもいつの間にか、「もう、できなくてもいいか…。」という気持ちに負けてしまって、ずるずると過ごしてしまいがちなのです。

「できたらいいな」と思っているうちに、「じゃあ、頑張ってできるようになろう!」と思えるような導き方をしてあげたいですよね。

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